最近の論文から:“ガマ“(洞窟) に生息するスナギンチャクの新種

2015年2月4日

概要
 琉球列島沿岸より、スナギンチャク(刺胞動物門花虫綱)の新種2種が発見された。2種共にイワスナギンチャク属に分類され、シマテヤミイワスナギンチャク(学名 Palythoa mizigama)、シロテヤミイワスナギンチャク(学名 Palythoa umbrosa)とそれぞれ命名された。両種は浅海の洞窟やリーフの窪みといった薄暗い環境に生息する。イワスナギンチャク類はイシサンゴ類と同じように褐虫藻(共生性の微細藻類)を体内に保持し、光合成およびプランクトン摂食によりエネルギーを得る。しかし今回発見された2種は褐虫藻を持たないという点でユニークである。両種の形態は非常によく似ており、発見当初は同一種と思われていた。しかし、DNAを用いた分子系統解析により別種であることが明らかとなった。以下に詳細を記す。


シマテヤミイワスナギンチャク
撮影地:嘉手納町水釜


シロテヤミイワスナギンチャク
実体顕微鏡下にて撮影

 琉球列島沿岸からスナギンチャク類の新種2種が報告された。発見者は琉球大学理工学研究科の伊礼由佳、ライマージェイムズ准教授、海洋研究開発機構のシニゲーフレデリック博士ら。スナギンチャクはサンゴやイソギンチャクに近縁なグループで、“スナギンチャク”の名は、体に砂粒を含む事に由来する。今回記載された2種は、イワスナギンチャク属に分類された。
 イワスナギンチャク類は主にサンゴ礁域に生息し、プランクトン摂食および褐虫藻(体内共生する微細藻類)が光合成を行う事により栄養を得る。しかし今回発見された2種は洞窟やリーフの窪みなどといった薄暗い環境に生息し、褐虫藻を保持しない。これでは光合成を行うことはできず、この2種は水中に漂う懸濁物やプランクトンを摂取することで全エネルギーを賄っていると考えられる。このように褐虫藻を持たないイワスナギンチャク類は非常に珍しく、世界中でこれまでに1例しか報告がない。
 今回発見された2種は、触手の色にちなみ、シマテヤミイワスナギンチャク(学名 Palythoa mizigama)、シロテヤミイワスナギンチャク(学名 Palythoa umbrosa)とそれぞれ命名された。シマテヤミイワスナギンチャクの種小名(学名の一部)である”mizigama(ミジガマ)”は、採集地の一つ、嘉手納町の水釜海岸を意味すると共に、水中の“ガマ”(ウチナーグチで“洞窟”)に生息するという意が込められている。この2種は分布域に違いがみられ、シマテヤミイワスナギンチャクは沖縄島、渡嘉敷島、八重山諸島、台湾、ニューカレドニアといった幅広い地域に生息し、シロテヤミイワスナギンチャクは八重山諸島と台湾でのみ生息が確認されている。
 両種は共に体長 5-10 mm 程度で体色はベージュや象牙色。非常に良く似た形態をしており、発見当初は同一種であると思われていた。両種は触手の色彩により識別可能で、シマテヤミイワスナギンチャクの触手は白黒の縞模様、シロテヤミイワスナギンチャクの触手は白色をしている。核DNAとミトコンドリアDNAを用いた分子系統解析の結果でも、両者が別種であることが示された。両種は薄暗い環境を好み、また、日中は触手を閉じており非常に目立ちにくい。このような条件が発見を遅らせたのであろう。近年、琉球列島から新種の発見が相次いでいるが、 特に洞窟やリーフの間隙といった目の届きにくい環境には、まだまだ多くの未発見種が潜んでいると期待される。2種の記載論文は、1月28日発行の国際学術誌 ZooKeys に掲載された。

原著論文タイトル
Descriptions of two azooxanthellate Palythoa (Subclass Hexacorallia, Order Zoantharia) species from the Ryukyu Archipelago, southern Japan

問い合わせ先
伊礼由佳 
琉球大学理工学研究科海洋自然科学専攻
〒903-0213 沖縄県西原町千原1 琉球大学理学部 354室
Tel: +1-847-932-9396(アメリカ)
Email: yuka.irei.mugi[at]gmail.com

ライマージェイムズ
琉球大学理学部海洋自然科学科 生物系・准教授
〒903-0213 沖縄県西原町千原1 琉球大学理学部 353室
Tel: 098-895-8542, 090-7294-9279
E-mail: jreimer[at]sci.u-ryukyu.ac.jp

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